ISO9001:2015年版『パフォーマンス重視の内部監査』(第4部)

 

私は、ISO9001:2015年版の改訂が、既存のQMSを改善する“絶好の機会”だと思っています。

その為には、経営トップが製品の品質保証を通じて顧客満足を向上させて“事業活動の向上”を目指した目的を新たなQMS戦略として採用し、QMS改善の必要性“経営判断”して貰うことが必要となります。 これからその具体的な取り組みについて連載にて紹介させて頂きますので参考にして頂けたら幸いです。
(一部アイソス掲載記事2017年7月号に掲載)

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LMJジャパン主任講師   青木 明彦

 

第4部:監査の種類 (同じ監査なのでしょうか・・・?)

【 言 葉 】

 

 監査には、第一者監査、第二者監査、第三者監査の三種類があります。

これは、読者の皆様に今更解説する必要も無い内容だと思いますが、組織の管理者の中には、同じ“監査”という言葉だから実施する内容も同じだと単純に理解されている方も多いように思われます。

念のために、この違いを簡単に述べておきたいと思います。

@第三者監査
外部認証機関によるISO第三者認証審査が代表的です。例えば、ISO9001:2015年版の要求事項が組織のQMSに展開されて遵守されていることを利害関係が無い公平な立場の専門家によって客観的な評価を行う監査です。

@第二者監査
顧客が供給者に委託する製品、サービスに関係する要求事項が遵守されていることを確認して、納入される製品、サービスに対して品質保証を検証する監査です。

@第一者監査
構築したQMSの適合性と意図した結果を達成するために業務改善を検証する有  効性の両面から製品、サービスの品質保証体制を確認する内部監査のことです。

 

 同じ監査という言葉が使われていますが、その目的や方法に大きな違いがあることを理解して頂けたことと思います。

 

■参考
ISO9000:2015年版では、“監査の定義”

『監査基準が満たされている程度を判定するために客観的証拠を収集し、それを客観的に評価するための、体系的で、独立し、文書化したプロセス』と定めています。

この定義は、第三者監査、第二者監査、第一者監査の全てに共通する監査の考え方なので異論も反論もありません。

 それに対して組織で実施される内部監査は、限られた経営資源(要員、予算、設備、時間)の中で効果的に製品、サービスの品質保証を行わなければなりません

同じ組織内で仕事を共にする人達に対する内部監査では、一般論、精神論、理想論を振りかざして現場に負担を掛け、付加価値の低い改善課題を突き付けるだけでは、監査に協力して貰えません。(勿論、表面上では、内部監査に協力しているかのように対応します。)

 

私が所属していた組織では、組織の内部監査に対する定義を、ISO9000の定義より“少し幅広く解釈”して運用しています。

その定義とは、経営トップの期待も含めて『製品の品質保証業務に実効性(品質問題の未然防止)があることを検証して改善の機会を提供する』というものです。

何処が違うのかというと、“実効性を顕在化して改善の機会を提供”するというところです。

具体的な役割としては、次のような項目が該当します。

 (1)QMSの遵守を検証

 (2)QMSの意図を正しく説明

 (3)品質に対する意識改革の教育

 (4)製品の品質問題を追究してQMS改善を勧告

 (5)組織がQMS運用上で困っている問題点を一緒に検討

 (6)QMSのあるべき姿を提示してプロセスの質を高める改善指導

 

組織の内部監査員は、QMSの改善課題を指摘するだけでなく、6個のキーワード(検証、説明、教育、勧告、検討、指導)を担当しなければならないので、QMS改善指導者として改善の必要性に気付かせる“コーチングスキル”も必要な能力の一つになりました。

ISO9001:2015年版を導入したQMS改善は、事業活動のパフォーマンス向上に繋がるように改善する方向性を指導する役割も期待されています。

但し、監査では、QMS改善に対する具体的な改善方法まで指示する“コンサルティング”まで強制できません。その理由は、指示した改善方法に責任が持てないことと、そもそも内部監査員は、業務改善に責任と権限を持っていないからです。

内部監査員の社内研修では、コンサルタントと改善指導の違いを聞かれることが良くあります。

この違いは、微妙なところにあると思いますが、コンサルタントは、自分が考える具体的な改善策を提示して実施を強要することだと説明しています。

それに対して改善指導とは、色々な改善のアイデア(改善のヒント)を提示して気付きを与えるところに留めて、被監査部門の管理者に改善方法を決定させることだと説明しています。

内部監査員は、上から目線で監査を実施すると改善指導と言いながら改善を強要する危険性があるので、被監査部門が困っていることの相談者としてQMS改善を実施出来るように背中を押してあげるという気持ちを持っていれば、コンサルに踏み込む危険性を回避できます。

 

そもそも内部監査は、決めた事を守る適合性だけでなく、パフォーマンス向上を阻害する問題点の原因を追究して顕在化するところまで求められるので、かなり難易度が高い監査になります。

この違いは、言葉で説明するより対比表で見た方が判り易いので一覧表に整理してみました。(図1↓)

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過去の内部監査は、ISO第三者審査が実施される前に内部監査を計画してISO審査で不適合が出ないように露払いになっていました。

経営トップが、内部監査に対して“無関心”なら何も問題になりませんが、もし期待を持っていたら不満が増す結果になると思います。

 適合性監査は、ISO事務局がISO9001要求事項に基づいて「チェックリスト」を作成して、素人の内部監査員に指示して実施している一問一答の確認になっていました。

この方法では、本来「製品やサービス」の品質保証体制を一貫した繋がりで業務の管理(PDCA)まで追究しなければならないのを、ISO第三者認証の継続への影響のチェックのようになり、影響が無ければ改善する必要も無いと判断されてしまいがちです。

しかも、被監査部門毎に監査時間を設定(例えば、一部門で2時間程度?)していますから、サンプリングを理由に比較的短期間で日程通りに終了することも可能になりますから簡単に実施できます。

それに対して有効性監査は、組織が意図する目的、目標の達成を阻害する原因を顕在化するために品質記録などの情報を分析して組織の弱点を見つけて改善の機会を提供することですので、複雑で時間が掛かります。

 この有効性監査は、事前準備にポイントが隠されています。

(1)  品質記録などの情報を分析した結果から“監査テーマ”を決めます。

(2)  監査テーマに対してQMSの問題と推測される原因を“仮説”として設定します。

(3)仮説を検証する監査の流れをイメージできるように“監査ストーリー”を確立します。

この三つのポイントを事前準備として時間を掛けて実施しておけば、有効性監査が成功する可能性が極めて高くなります。

 

更に重要なことは、“経営トップの関与”です。

経営トップは、QMSの有効性やパフォーマンスに関する情報を把握して経営判断するために、品質管理責任者や内部監査員を活用します。

内部監査員から事前準備の説明を聞いて承認印を押すだけの関与ではなく、内部監査の依頼主として監査結果に責任を負わなければならないので、そのカギを握る事前準備にも責任を持って関わってもらうことが必要です。

 

有効性監査は、事前準備で三つのポイント(監査テーマ、仮説、監査ストーリー)経営トップの承認に基づいて実施することが前提となります。

特定した監査テーマに対する仮説が実証できるまで、各プロセスを追跡して原因を顕在化します。

監査テーマとして顧客クレームを対象とした場合は、下記のような監査の流れが想定されます。

その顧客クレームが発生した原因を顕在化させるために、製品実現化プロセスを遡って追跡(最終検査プロセス⇒製造プロセス⇒購買プロセス⇒設計プロセス⇒企画プロセス)します。

その原因は、複数考えられるので顕在化するための監査時間が長く必要となります。

内部監査は、監査計画を遵守するために監査時間を守ることが重要だと言われています。

ISO第三者審査を含めて内部監査の適合性監査の場合は、サンプリングを理由に時間を守ることも比較的容易だと思います。

それに対して内部監査の有効性監査は、仮説が実証できるまで終了すべきでないので、絶えず計画書を改訂しながら対応しなければなりませんから時間の管理が困難になります。

もし、仮説が実証できないままで監査時間の遵守を優先して終了したら、経営トップが納得しないので承認が得られず、再監査を求められる可能性が大きくなります。

このような状況を回避するためには、やはり事前準備に時間を掛けることが欠かせません。

 

私は、第三者監査、第二者監査、第一者監査の中では、第一者監査(特に有効性監査)が一番難しいと思っています。

その理由は、事業活動のパフォーマンス向上まで求められるからです。

内部監査員が、力量の高い専門家なら適合性と有効性を切り離さないで一緒に実施出来るので、内部監査員の人員を増やすより専門家を育成する方が組織にとって効果的だと思います。

 経営トップの期待に応えるためには、内部監査員の“能力”が大きく影響することは分かっています。

この能力には、内部監査を実施するために必要な‟力量“として、知識、訓練、経験、資格などを持つ内部監査員を育成することと、内部監査の重要性を“認識”して実施する情熱、責任などの自覚を持つ内部監査員を人選することが必要だと思います。

しかし、内部監査員を人選する段階では、どこまで認識を持っているのか見極めることが難しいので、内部監査の実務を通じて内部監査に適した“資質”を持ち合わせていることを総合的に判断することが求められます。

ISO事務局を担当している人は、長年に亘って組織内でQMSに関わっているので内部監査の専門家に一番近い存在だと思いますので、組織内のQMS改善指導者として活躍の場を広げられたら良いのではないでしょうか。

 

第1回第2回第3回

第4回終わり 続きはしばらくお待ちください・・・